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江戸時代からの系統を受け継ぐ、指物職人 益田大祐

益田大祐

指物とは

江戸の指物は江戸時代に大工から分かれた職業。

指物職人は大工で培った技術を更に独自の分野(ちゃぶ台、鏡代、箪笥他)に特化して高めていった。

そして現在指物は伝統的な製品のみに留まらず、身の回りの様々なものが製作されている。

今回は墨田区在住の気さくで愛嬌のある笑みが印象的な指物職人の益田さんを訪ねた。

「ここは、昔は本所区だったんですよ」という益田さんは東京都練馬区生まれだそうだ。

明治以降、自由に仕事が出来るようになって随分と職人が増えた時期もあったが、今では独立して製品を作っている職人は少なくなってきた。「問屋さんがしっかりしていた時代には、問屋の仕事以外は出来ませんでした。その時代は料亭や旦那衆などから、多くの注文があったらしいんですよ。」花街に以前の活気がなくなりつつある今でも職人同士の繋がりは残っている。

「ありがたいことに、(自分を)気にかけてくれる先輩職人もいて、そういった繋がりで仕事を頂くことも多いんです。」

人と人の繋がりが生きている職人の世界。

「人としゃべるのが苦手だから、職人になるというのは、大きな間違え。いろんな人と仕事をしますし、どこからどこまでが、仕事かも分からない時があるよ(笑)。」 今でも、かつて修行をした浅草に行くと、いろいろな人に声を掛けられるそうだ。「浅草で自転車なんかに乗っていると、どこに行くんだ?丁度良いからあれも買ってきてくれ、っといった調子で、山盛りの買い物をしたときもありますよ(笑)。」

益田大祐 道具

道具

道具の手入れを見ると、職人の腕が分かるそうだ。

道具の手入れは、季節の変り目に集中する。例えば鉋の場合。木で出来ている鉋台は季節の変り目で狂いが生じる。それを直すのもまた鉋。鉋はひとつじゃ、用を足さない。

鉋の調整で一番簡単なやりかた方は、立ち鉋(歯が立った鉋)を使う方法だ。

立ち鉋で鉋台の下端の部分を削る。このときに鉋台の木目に対して直角に削ることで、鉋の歯が鉋台の高い部分に当り、そこが削られる。硬い木の場合、寝た歯で木を削ると抵抗が大きく、歯が食いついてしまう。

鉋台は、職人によって微妙に重心が違う。これはそれを使う職人の手の大きさや持つ位置などにあわせるためだ。つまり道具はそれを使う職人専用なのだ。

このように、鉋は実に繊細な道具である。そのため、その調整は言葉では説明が難しく、「見て覚えろ。」ということになる。また、一般的に2年程度の技術訓練校では、道具のメンテナンスまで覚えることは、不可能なのだ。

鉋台と合わせて研ぎの作業も重要だそうだ。「研ぎは一生ですね。」という益田さん。

研ぎは、鋼、季節、研ぎ石によって全然違う。歯付けという作業がある。最初、鋼は焼くため真っ黒で、歯が付いてない。それを研いで刃を付けることを歯付けることだそうだ。この歯付けも自分で行う。

益田大祐 素材

素材

作業場には、材料となるたくさんの種類の木が置いてある。

木は銘木屋さんから仕入れる。時には好みを知ってくれている銘木屋さんが、良いものが入ると連絡してくれるそうだ。木は大きさにもよるが、大体切ってから10年程度その場所に置いた後、さらに製材後2~3年くらい経ったものを使う。

木はときに水に濡らすことも重要だ。水に濡らすことで灰汁が抜ける。切ったその場に置ことで、雨に打たれながら、だんだんと落ちついてくる。大きい木などは30年、40年置いておく場合もあるそうだ。

そうして長い年月をかけてやっと職人により、製品になるのだ。何年もかけて、落ち着かせた木だからこそ、長く使えるものになるのではないか。

使う人へのこころ配り

指物では、使い人に対する様々な心配りが隠れている。例えば桐箪笥。一昔前までは、娘の嫁入り道具として人気があった。指物では、長い時間をかけて選び抜かれた木を使う。

益田大祐 江戸指物の密閉力

密閉力

指物の一番の特徴は釘を使わないという技術のほかに、密閉力が上げられる。

例えば、現代家具の引き出しは、かぶせと言われる前面の板が、本体に当って止まるという構造。

それに対し、指物では、引き出しがぴったり本体に入る構造だ。しかもその密閉力は、たとえば箪笥を横にして、上から引き出しを落としてもゆっくりと本体に収まる感じ。

「その引き出しを収めたときにパタンとならないのが、言ってみれば所作の美しさにもなるのかな(笑)」と益田さん。どれくらいの密閉したものが良いか、好みを言えば対応は可能だそうだ。

製品

「一時期、多くの職人が美術指物にいった時期もあったんですが、その昔はもっと気軽なものだったんじゃないかな。」という益田さん。木で何かを作る職人として、現代的な物づくりを積極的に行っている。

赤ちゃん用ガラガラ

ヒノキで作った赤ちゃん用のガラガラを手にしながら、「何かをするための”木のもの”を作る職人なので、例えば赤ちゃん用のおもちゃでも良いんだと思います。」赤ちゃんの口に入らず、しかも持ちやすい大きさで、手触りが非常に滑らか。1つの木から作ったとてもシンプルで美しい形。

益田大祐 合曳

合曳

折りたたみ式の合曳は技術の宝庫である。大小5枚の板だけで作られており、組み立てたときにガタガタせず、しかも畳んだ時にぴったりくるものを製品として作れる職人は少ない。

お茶や花を習っている若い女性に大変人気があるそうだ。これを使うと、正座が楽ということのほかに、着物の前身頃(まえみごろ)が綺麗に見え、しかも着物の後ろがしわにならない。とても上品で気品のある女性に見えるのだろう。

長唄用の譜面台

昔の人は巡業だったので、全てコンパクトに。軽いのと見た目がすっきりして綺麗なので、人気がある。

益田大祐 名刺ケース

手拭掛

様々な模様が人気の手拭い。手拭いは飾って楽しんで、次に使って、最後に雑巾になる実に便利なもの。

季節によって好みの手拭いを直ぐに変えることが出来るように工夫している。

名刺ケース

良いものを持っていると話しの種になる。しかも指物で作られた名刺ケースは嫌味がなく、初めて会う方との話題にもってこいだ。

この名刺ケースには、興味深い技術が詰まっている。蓋を横にスライドさせ、しかも蓋には落ちない工夫が。横にスライドさせるところに、日本を感じる。