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京都 型染職人 赤坂武敏 線で繋ぐ魅力的なデザイン

京都 型染職人 赤坂武敏

今回多くの人々で賑わいを見せる京都を訪問した。

お話しを伺ったのは、型染職人の赤坂さんである。
型染めは古くからある染色技法のひとつで、柄(がら)を染めるのに型紙を使う。
赤坂さんは、柄のデザインから染色までの全工程を手掛ける。

型染めの柄

型染めの特徴の一つが、柄(がら)である。
型染めの柄は、線でつながっているのが基本である。
柄を彫り抜く際に、抜け落ちないようにつなげてあるとこを“つり”と呼ぶ。

「“つり”の事も考えながらデザインすることが、型染めの一番の魅力」という。そして柄を決めた後、その柄を型紙に彫り抜く。

このとき“つり”によってつながっているために、柄は落ちることなく彫り抜くことができる。
更に柄が彫り抜かれた型紙には、紗(しゃ)が貼られて型染めの型となる。
紗を張ることで型の強度が増すとともに、糊(のり)を置くときに駒べらが引っかからなくなる。

京都 型染職人 赤坂武敏

型染めには欠かせないこの型紙、実はとても大切な工夫が施されている。

型紙は和紙でできている。
通常和紙は、水を吸収すると伸縮するという性質を持っている。
この性質が型染めにとって、大きな障害となる。
型染めでは、生地に繰り返し糊が置かれる。
型は糊を置く際に使用されるため、必然的に水に濡れたり乾いたりを繰り返す。
そのため、水に濡れるたびに型が伸縮していたら、糊を正確に重ねることが出来ないのである。

そこで、型染めに使われる型紙には、紙本来の性質である伸縮性を抑える工夫がされている。

型染めで使われる型紙は、3~4枚の和紙を繊維を互い違いに重ね、それを柿渋で張り合わせた構造となっていて、しかも完成するまでに燻したり干したりの処理が施されている。

こうした一つ一つの工夫によって、本来紙が持っている伸縮性という性質が抑えられているのである。

京都 型染職人 赤坂武敏

糊置作業

型紙に柄(がら)を彫り抜き、紗を貼ったら、次にそれを生地の上に重ね、その上に青い顔料を混ぜた糊(のり)をどっさりと山のように置く。
そして、駒べらと呼ばれるへらを使い、その糊の山を手際よく伸ばしていく。

駒べらが型の上を移動するたびに、彫りぬかれた柄の部分を通して、糊が生地の上で柄を描いていく。
ここでは糊は塗るものではなく、置くものである。
この作業を糊置きという。

生地の上に置かれた糊は、生地を染める際に染料から生地を護る。
一方、糊が置かれていない部分は色に染まる。
そうして、糊に護られた部分が柄として残るのである。

京都 型染職人 赤坂武敏

普通、生地の長さは着物の場合で一枚13メートル程、振袖になると17メートルにもなる。
そのため糊置きは、7メートル程ある専用の長い木の板の上で行う。
この板、かつて染物が盛んだった頃には多く出回っていたという。
しかし今までは、ほとんど出回ることはない。

今回、特別に糊置き体験をさせて頂いた工房には、この板が整然と並べられている。
板は、モミの木が多い。
節(ふし)が少なく、ヤニも出にくい。

赤坂さんはこの板の上で、素早く丁寧に糊を置く。
今回使用するこの糊には青い顔料の他、石灰が混ぜてあるという。

「石灰を入れると糊のもちとキレが良くなって、落とすときポロっと取れるんです。」

糊は職人によって、少しずつ配合が違う。
もち米等の粘りが強い糊をねば糊、ヌカ等の切れが良いのをさく糊というそうだ。

京都 型染職人 赤坂武敏

ところで、職人の世界は独特の言い回しがとても面白い。

”糊を置く”もその一つ。
そのほか糊を置き終わり、型を持ち上げたときに、型に糊が着いてきて、時にそれが生地の上に「ポトリ」と落ちる。
職人たちは、それを”ひげ”と呼ぶ。
また、糊が型の間に入ってしまい、模様がきちんとあがらない時がある。
それは、”屁をこく”。
そうした言葉を時々耳にする。
「染色用語辞典を見ると、実際載っているのもあるんですよ。」

反物など長い生地を染める場合は、生地の上で型を送りながら糊を置く。
そうして生地の全部に糊を置き、乾いた後、また最初の部分に型を戻し、置いた糊の上にまた糊を重ねるように置く。
少しでも型がずれると柄が台無しになってしまうのだが、赤坂さんは素早く正確に型を重ね、糊を置く。

実は、型の送りを正確に合わすために型にある工夫がされているという。
それは、型にあいた小さな真ん丸い穴である。
赤坂さんは、この見逃してしまいそうな程小さな穴を基点として正確に型を移動する。

京都 型染職人 赤坂武敏

この小さな穴は丸キリという道具であけられる。
歪みのない真ん丸い穴。
この形を可能にする丸キリは、あまり人の目に触れることがないものの、型染めには欠かせないとても大切な道具である。

そうして糊をおき終えた生地は、糊が乾いた後染められる。
生地を染めて初めて、丁寧に置いた糊の模様が浮かんでくるのである。