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埼玉県小川町 手すき和紙 久保製紙 純国産の手漉き和紙

手すき和紙 久保製紙

今回は和紙の里として有名な埼玉県小川町を訪問した。
夏の盛りを過ぎた小川町の駅を出て少し歩くと、黄金色に実った稲穂の上をたくさんのトンボが飛んでいる。

小川町のある武蔵の国では1300年もの昔から紙が盛んに作られていたという。
小川町で作られる和紙は、主に民業を支える紙として発展してきた。

そんな小川町で100年間紙漉き工房として操業を続ける久保昌太郎和紙工房が、今回の訪問先である。
久保昌太郎和紙工房が創業したのは、大正2年(1913年)。

既に100年近くを経ている建物の中に足を踏み入れて、先ず目に入るのが紙を漉く水槽である。
この工房では、今尚手漉きにこだわっているのだ。

今回のお話しを伺った久保孝正さんは、この工房の5代目。
説明はとても簡潔で分かりやすい。

手すき和紙 久保製紙

久保昌太郎和紙工房

久保昌太郎和紙工房の創業は今から100年前の大正2年である。
この工房では、紙の厚みにもよるが、毎日150~200回くらいの紙を漉く。

私たちが訪れた時も、水墨画用の紙を漉いていた。
工房内は、紙漉きの音に加え、30分から1時間に1回、原料を混ぜる機械の音がこだまする。
とても小川町らしい響きである。
工房の建物の一部は、創業前からのものである。

建物の外には、大きな水槽がある。
「夏には、姪っ子が水槽で遊んでいましたよ(笑)。川で遊ぶなら、水槽のほうが安全ですから。」(孝正さん)
ちょっとしたプールといった大きさである。

久保昌太郎和紙工房を創業した初代は、もともと学校の先生をしていたが、体調を崩して紙の工房をはじめたそうだ。
小川町には、紙漉き奉公という言葉もあるほど、当時は紙を漉くことが出来る人が多くいて、そういった人たちを集めたのである。

孝正さんは、そんな歴史ある久保昌太郎和紙工房の5代目をごく自然に継いだのだそうだ。

「父には、継ぐようにはっきり言われたわけではないんです。やりたければどうぞって感じでした。でも実際のところは、時代的に難しいだろうなって感覚だったと思います。」(孝正さん)

100年という、とても歴史ある久保昌太郎和紙工房だが小川町の中では比較的新しいそうだ。
「うちは、創業が比較的新しいので、川から離。」(孝正さん)
水を必要とする紙工房は、古いところであるほど、水を利用し易い川沿いや山の際にあるそうだ。

手すき和紙 久保製紙 細川紙

細川紙

小川町の和紙の中で今も昔ながらの製法と材料で作られるのが、細川紙である。
細川紙は、国産の楮(こうぞ)を原料とし漂白剤を使わずに作られる。

原料となる楮(こうぞ)の皮は3層になっていて、そのうち一番内側の部分だけを使う。
昔の細川紙は、皮の真ん中の部分も入っていて、今より少し緑がかっていたとも言われる。

国産の原料と昔ながらの製法によって作られる細川紙は、昭和53年に国の重要無形文化財に指定された。
そしてさらに平成25年、細川紙は「和紙:日本の手漉和紙技術」として石州半紙、本美濃紙とともにユネスコの無形文化遺産として申請された。

手すき和紙 久保製紙 和紙について

和紙について

和紙というと、先ず丈夫で長持ちをするというイメージがある。
実際正倉院には、1000年以上前の和紙に書かれた文書が残っているという。

一口に和紙といっても、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)といった、昔ながらの原料を100%使用したものとは限らない。
今ではさまざまな用途に応じて、塩素漂白や原料のブレンドが行われている。

例えば、今の障子紙は大部分が塩素漂白されている。
塩素漂白をすることで、障子紙の白さがより鮮やかになる一方で、紫外線により、白い色がだんだんと黄ばんでくる。
反対に塩素漂白をしない場合、最初は鮮やかな白ではないが、紫外線により少しずつ白みを増すという。

また今の和紙は、外国産の原料や木材パルプなどの原料がブレンドされているものが多い。

このときに使われる外国産の原料と国産の原料には、実は大きな違いがある。
その違いの一つを、紙を漉くまでの工程に見ることが出来る。

手すき和紙 久保製紙 楮煮出し

紙を作る場合、先ず乾燥した楮をアルカリ性の薬品で煮て、原料となる繊維を取り出さなくてはならない。
この時に国産の楮に比べて、外国産の楮のほうが、より強い薬品を使う必要があるのだ。

しかし、強い薬品を使うと、どうしても繊維がダメージを受け、長持ちしなくなると言われている。
これだけを聞くと、国産の原料で作られた紙のほうが優れているように思えるのだが、紙の用途を考えると国産の原料で作られた紙が、すべてにおいてブレンド紙より優れているというわけではない。

久保昌太郎和紙工房の主力商品である水墨画用の和紙の場合、筆のすべり具合やにじみ具合を考え、最適なブレンドを行っている。
こうしたことから和紙を選ぶ場合、イメージだけで選ぶのではなく、用途に応じて紙を選ぶ必要がある。

また、1000年もつ和紙というのも、そうそうあるものではなく「1000年前の紙が残っているというのが、正しい表現。」(孝正さん)、ということである。

そんな和紙の中で、国産の楮だけを使い、漂白財を使わず、ととろろあおいを加えて手で漉かれる細川紙は、1000年もつ可能性がある大変貴重な紙ということが出来るのだ。

手すき和紙 久保製紙 小川町と紙漉き

小川町と紙漉き

小川町の人口は3万人余り。
駅前を離れると、山間に水田が広がる穏やかな町である。
田んぼの脇の用水路では、ザリガニや小魚がいる。
小川町には、まだまだ地元の子供たちがザリガニ釣りをする場所が数多くあるのである。

実はこの小川町には紙漉き工房と合わせて酒蔵がとても多い。
今でも3軒が営業している。かつては4軒あったそうだ。
酒蔵が多い小川町一帯は、昔から関東灘と呼ばれ、紙で潤った商人たちによる料亭文化が花開いた。かつては置屋もあったそうだ。

水を使う紙や酒が盛んに造られた小川町であるが、意外にもそれほど水量が豊富というわけではなかった。
その名残として、先人達が築いた農業用のため池が今も数多く残っている。
そうしたため池を補強する役割として、利用されたのが、紙の原料となる楮(こうぞ)である。

かつて楮は、ため池などを補強するために数多く植えられ、紙作りに利用された。
また山間で耕地面積が少ないという地形的な要因も、小川町で紙漉きが盛んになる要因を生んだ。
小川町では耕作面積が少ないため、お米に加えて紙を税として収めなくてはならなかったのである。

そうしたいくつかの要因が重なり、小川町は全国的にとても珍しい、手漉きの工房がまとまってあるという、特徴的な町となったのである。

手すき和紙 久保製紙 とろろあおい

原料

とろろあおい

紙を作る際に欠かせないのが、とろろあおいの根の部分である。
紙を漉く際、とろろあおいが入ることで、紙となる繊維の動きが緩やかになる。
この緩やかな動きが、紙漉きを可能とする。

仮にとろろあおいを使わず、水だけで紙を漉くと、繊維が塊になってしまい、平らな紙を作ることが出来ない。
とろろあおいを使い、平らで滑らかな表面の紙を作ることで、上下の紙がくっつかずに、重ねることが出来る。

昔は冬に漉いた紙のほうが良いとされた。
冬は、しまった紙が出来るというのだ。

「地合いと言うんですけど、冬の紙は透かしたときにモクモク感が少ないんです。」(孝正さん)
実はこれも、とろろあおいの作用の一つである。
冬はとろろあおいが痛みにくく、また雑菌が繁殖しにくい。

これにより、とろろあおいの効きが良くなり、より平滑な紙を作りやすくなる。
ところが、最近はモクモク感のある紙のほうが「和紙っぽい」ということで、好まれる場合もある。

手すき和紙 久保製紙 楮

楮(こうぞ)

紙の原料となる楮は、桑科の植物である。
実は楮、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)といった一般的な紙の原料に限らず、桑や藁、竹からも紙は作れるのである。

では何故、桑や藁、竹といった植物を原料とした紙作りが一般的にならなかったのか。
それは、楮や三椏、雁皮が他と比べて格段に、効率的で良い紙が作れるからである。

とても効率よく紙を作ることが出来る楮ではあるが、今国産のものはさまざまな理由から生産量が減っている。
生産量の減少はとても深刻である。
国産である必要がある特別な紙であっても、原料の供給が産業として成り立たなくなってしまうと、生き残ることが難くなる。

手すき和紙 久保製紙 道具

道具

かず煮を行う釜

小川町では、原料の楮(こうぞ)のことをかずと呼び、作業工程をかず○○と表現する。
写真はかず煮を行う釜。
乾燥した原料を一度に30~60キロ煮ることが出来るほどの大きさである。

打解機

打解機は、かず煮を終えた楮に、かず打ちを行う機械。
打解機にかけることで、繊維がほぐれる。
打解機では、30分程度楮を打つ。

ビーター

ビーターは、原料の楮などの繊維を紙漉が出来る状態になるまで細かくする機械。
高価な機械であったことから、昔の小川町ではビーター作業を専門に行うビーター屋というものがあった。

蒸気乾燥器と天日乾燥を行う板

今では紙の乾燥は、大部分蒸気乾燥機で行っている。
水墨画用の紙であれば、片面3枚、両面で6枚を一度に乾燥させることが出来る。

紙の表裏について聞かれた場合には、紙を干すとき鉄板に貼った面を表と説明する。

鉄板に貼った面は、反対の面に比べて表面が滑らかなのだ。
紙は鉄板に貼った後、刷毛で掃かれる。
そのため、掃かれる側の表面にはざらつきが出来る。
このざらつきがないほうが表となるのだ。
しかし最近では、あえて裏と表をいわないようになってきているそうである。
紙の表裏は、それは使う人が決めれば良いという考え方である。
人によっては、ざらつきがあるほうが筆に引っかかるとか、にじみが面白いとかいう意見もあるそうだ。
天日乾燥の場合は、木の板を使う。そのため、紙に木の凹凸がつく。
この凹凸が、たとう紙など、ものを包む紙には向いているそうだ。