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奈良県生駒市 中谷芳仙園 1/25ミリの職人芸「高山茶筌」

奈良県生駒市 中谷芳仙園

今回訪問したのは、奈良県の生駒市高山町。

高山町の茶筌(ちゃせん)作りは既に室町の頃に始まると言われ、現在生駒市は茶筌の生産量日本一を誇り、茶筌の里として有名である。
生駒市で生産される茶筌は、
高山茶筌として昭和50年に国の伝統工芸品(経済産業大臣指定)に認定された。

そんな高山町でお話しを聞かせて頂いたのは、高山町で茶筌を作る伝統工芸士、中谷芳仙園の中谷齊さんである。

季節はこれから取り掛かるという初釜用の青竹が立て掛けられた11月末のこと。

中谷さんは、分業によって行われる茶筌作りの中で最も難しい「味削り」といわれる工程を行っている。

奈良県生駒市 中谷芳仙園

茶筌の材料となる竹は、流派や用途によって様々な種類のものが使われる。
表千家の場合は煤竹、裏千家の場合は白竹、初釜の場合は青竹といった具合である。
その中で近年入手が難しくなっているのが煤竹。

通常煤竹は、古民家の天井などで長い間煙に当たるため、煙が当たる下の面と土などに覆われていた上の面では色が異なる。
煙に当たったところは黒く、土に覆われたところは薄くなるのだ。

そのため、どの面も同じ色をした煤竹というものは、普通存在しない。
この色の違いが竹に表情を与えるとともに、竹の強度を知る手掛かりにもなる。

実は色の薄い面は長い間土に埋まっていたために傷んで弱くなっているものが多いのだ。
そのため茶筌を作る過程で折れてしまう。

茶筌は竹を360度使って作られる。そのため、ぐるりと全部良い状態でないといけない。
その結果、煤竹を材料とする表千家用の茶筌はどうしても高くなる。
一方で、茶杓などは煤竹であっても良い状態の面だけを使うことが出来る。

ちなみにここ高山町では、茶筌以外にも茶杓、花器、茶合など様々な茶道具が生産されている。
また竹は煤竹でなくても、加工し易いまたは加工し難いなど、いろいろ個性があるという。
そんな個性を持った竹の中で、弾力性があってお茶を点て易いという茶筌にむいた個性をもつ竹となると、中々見定めることは難しい。
「使わないと分からない」ということになる。

一方で竹には共通した特性もある。
例えば竹の外皮は雨風には強いが粘りがないという。
この場合、外皮をきれいにそろえて剥がすことで、茶筌に表情を与えながら粘りのある部分を出して生かすというように、個性をうまく生かす。

茶筌作り

奈良県生駒市 中谷芳仙園

茶筌作りは、分業によって行われる。
そんな数ある作業の中で中谷さんが行っているのが味削りである。
味削りをする竹は、先ず削る前に湯に浸す。
竹には灰汁があるため、竹を浸した湯は黄色くなる。

「暖めないと、ばらばらなりますやろ。ほんでこうして濡らして。。乾いたままだと、硬とうて削れやしませんし。。」と言いながら、中谷さんは湯から取り出した竹の内側を削っていく。
穂の先になるほど薄くなるように削る。この薄く削るところがとても難しいという。

「ここの曲がっているところを1ミリの4/100~5/100くらいにしないと曲げたときに折れてしまうし、もっと薄いとぐにゃぐにゃになる。」
指先に伝わる感覚で竹を削っていくのだ。

奈良県生駒市 中谷芳仙園

外で見た初釜用の青竹の場合は、乾いた竹より硬く手間がかかるそうだ。

こうして作られる茶筌は、竹の太さで若干の違いがあるものの、穂が60~70本程度が標準となる。
ここでいう穂の数は、外側の本数である。
中の穂の数を入れるとその倍の数となる。
穂は太い穂と細い穂が交互になっていて、後で細いのは中、太いのは外といった具合に編みこまれる。
またこの穂の数は、点てるお茶の種類や流派によっても変わるが、特に濃茶用のものを粗穂と言い穂の数が少なくて太い。
濃茶は薄茶と比べてねばりがあるため、細い穂では点てにくいのだ。

そんな粗穂の中でも一番穂が太いものを大粗といい、穂が太いために硬くて手間がかかるという。

中谷さんが作業をする時間は深夜である。
「いつも大体ここに座って夜の3時までやって。。5時くらいに寝て。」
いつもご夫婦で一緒に作業をする。明かりは真上からのほうが見やすい。
作業をする傍らには、いつも湯が沸いている。

「夏は暑くて大変でんな。」
作業のきつい夏場は、注文が少ないという。
「やっぱり、暑いときに着物着てお茶する人は少ないんでしょ。(笑)」
一方寒さが増す年末に近づくと、一年を通して最も忙しい時期となる。
「初釜用の青竹の茶筌を作らないといけませんから。」

奈良県生駒市 中谷芳仙園

昔と比べると初釜をやるところは少なくなったものの、まだまだ様々な場所で行われている。
茶筌作りは、「竹から一日10本作れるようになれば1人前」と言われているという。

中谷さん自身は学校を卒業し、直ぐお父様の後についてこの世界に入った。
「息子は継ぎませんよ。仕事がもっとあったら継いでも良いけど。。」

今は、価格の安い外国産の茶筌が多く出回っている。
日本の文化を支える茶筌であっても、現実は厳しい。
しかし、そんな厳しい中であっても中谷さんのところに茶筌作りを習いにくる人もいるという。
中谷さんは竹を削りながら、「一生が修行やな。」と、屈託のない笑顔を覗かせる。

奈良県生駒市 中谷芳仙園

小刀

中谷さんが竹を削るのに使う小刀は、2種類。
幅の平たいものと狭いもの。
小刀は切れ過ぎてもいけないし、切れなくてもいけないという。
小刀を使って削るというか「擦りとるみたいな感じですわ。すぽっと切れたら、先ないようになるさかい。」

中谷さんは、この微妙な切れ味を出すために粗い砥石で刃を研ぐ。
「刃物作ってはるところやったら、ええ砥石で砥いだら切れるって言わはるけど、そんな砥石で砥いだら、先がみんな飛んでまうもんな。(笑)」
小刀は、播州三木打刃物として有名な兵庫県三木市のもの。
刃がついていないものを自らが刃入れをする。
毎日使う小刀は、半年もたつと使えないくらい短くなる。