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千葉県 房州団扇 宇山工房 扇と骨の美しさ

房州団扇 宇山正男

今回ご紹介する房州うちわは、千葉県で唯一の経済産業大臣指定伝統的工芸品である。
この房州団扇は、完成までに21種類もの工程がある。
この全工程を一人で行なうのが、今回訪問した宇山工房の宇山正男さんである。

訪問したのは、9月に入って間もないころ。
9月に入れば、少しは仕事が落ち着くのかと思いきや、全てを一人で行なっている宇山さんは、一年間を通して忙しい。

田んぼの間の道を少し入ったところに宇山工房はある。
宇山さんは、戦後間もないころに房州団扇を広めた岩城惣五郎さんの3代目から技術を学んだという職人さんである。

もともと房州では、団扇の完成品は作っておらず、竹を裂いた状態で生産地に送っていた。当時は名前も房州団扇ではなく江戸団扇と呼ばれていたそうである。それが関東大震災によって生産地が房州に移ったことで房州団扇と呼ばれるようになったのである。

そんな房州団扇は、今でこそとても人気があるものの少し前まであまり知られていなかった。
注目されるきっかけとなったのが、テレビ番組の特集で取り上げられたことである。当時、10日間かけて21の全工程を取材したそうだ。
それがもとで徐々に注目されるようになり、今ではさまざまな取材に応じている。

房州団扇 宇山正男 房州団扇の魅力

房州団扇の魅力

現在、色とりどりの柄(がら)に彩られた団扇がたくさん売られている。この華やかな柄が団扇の魅力であろう。
しかし、房州団扇の場合、特徴であるとともに最大の魅力は、何といっても”窓”といわれる部分の美しさである。

窓とは団扇の柄と編み糸の間の部分をいう。
実はこの房州団扇、丸い竹をそのまま使うため、丸い柄(え)がそのまま放射状の骨になる。
この柄から立体的で流れるように変化する部分がとても美しい。

普通の平柄の団扇では、この部分に紙や布をはって隠しているものが多いのだが、丸柄である房州団扇の柄は厚みがあるため、それが出来ないのである。

そしてこの窓の一番下には弓といわれる部分がある。
この弓、何気ない形だが実はこの曲った形を削るのがとても難しい。
昔は弓を削る専門の人もいたそうだ。

一方、窓のもっとも先端の部分にあるのが編み糸である。
ちなみに、宇山さんが使っている糸の色は、主に赤と青の2色だそうだ。
この糸は綿で出来ている。

丸柄である房州団扇では、紙を張る部分の骨を平らにするため焼きを入れるのだが、このとき、糸がナイロンなどの科学繊維だと、溶けてしまうのだ。
焼きを入れるときには、骨を平らにするため、竹を押さえとして「寝取り」という竹を横に通す。
房州団扇は、一品一品とても丁寧に作られている。

房州団扇 宇山正男 団扇の竹

団扇の竹

房州団扇の材料のひとつが竹だ。
竹は、女竹を使う。
房州一帯は良質な女竹が自生していて、房州団扇以外でもこれを利用した竹工芸もとても盛んに行われている。

一人で21工程を行なっている宇山さんは、竹も自分で切り出す。
竹は大体11月から12月に切るそうだ。
宇山さんは年間3,000本程度を製作するので、その分だけ竹を切り出す。とても骨の折れる作業である。

この時期の竹は眠っていて油がのっていて団扇にはとてもあっている。
これが春になると竹に水分が上がってきて、油は抜けていく。
団扇に使う竹には油が重要なのだ。
油がのっている竹は、細くして丸めても折れないほどよくしなる。
このような油がのった竹で作った団扇は、長く使うほどに艶が増し、竹が飴色になるまで使うことが出来る。

また宇山さんは、竹を切りだす他にそれだけの竹を毎年手に入れるための山の管理までも行っている。
しかも、毎年新しく生えてくる竹が使えるわけではなく、山をきれいに管理しながら、5年毎に竹を取っている。
一人で全てを行なうというのは、そういった実際の工程以上に、手間がかかるのだ。

房州団扇 宇山正男 房州団扇の骨

団扇の骨

房州団扇では、1本の竹を多いもので64本に細かく裂いて骨にする。
昔は、竹を裂いた状態で江戸に送っていたそうだ。

団扇の骨の数は、竹の太さや作る団扇の大きさによって決まるのだが、竹を見れば、大体の感覚で分かるそうだ。
この骨は数が多ければ多いほど細くなり弱くなってしまう。この見極めがとても難しい。
この骨を作るのは先ず、竹を16本程度に裂いてから、竹の腰を折って内側を取る。
それから、さらに竹を細く裂いていく。

職人の顔

今回お話しを伺った宇山さんはとても気さくな方である。
お仕事のことから、身の回りのことまでとても楽しいお話しを伺うことができた。

宇山さんは山を掃除したりするので、よく山に行く。

そうすると、猪や猿、蛇といった野生動物に出会うそうだ。
「今年は猪がいるんです。猪は親子連れが一番おっかない。」

房州団扇 宇山正男 職人の顔

さらに房州の山に多く生息する猿は、よくお弁当を盗む。
山で作業をしておなかが減ったところで、お弁当をとられたら大変である。
「あとマムシが怖いね。」マムシは青臭くて、大体分かるらしい。
「マムシは目を離すとさっと逃げちゃうから、目を逸らさないままでやっつけるんです(笑)。」と、とても話しが面白い。

そんな宇山さんの仕事風景は、「一日の仕事は、大体飽きればやめる感じだね。気が向くときもあれば、気が向かないときもあるよ。」と、とても朗らかである。

また、修理の依頼についてのお話しも、とても印象的である。
宇山さんが製作したものは、裏に宇山工房の印が押されている。
宇山工房の印があるものは修理の依頼も受けるが、それ以外のものは基本的に受けないようにしているそうだ。

これは、その団扇にどんな材料が使われているか分からないからとのこと。
自分の仕事に責任を持っている証である。
ちなみに修理を受けるにしても、柄は毎年変わるので同じものは出来ないそうだ。

房州団扇 宇山正男 道具

道具

竹を裂く道具や竹を切る道具。
錆びているが、日本刀の一部を折ったものも使っている。

製品

宇山さんのところでは、柄は毎年50種類程度を準備し、どれも5点程度しか製作しない。
「昔は広告用に100本とか200本とか売れたけど、今はそんなのはないからね。」毎年違う柄を用意するのだそうだ。