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宮城県亘理町 WATALIS ”ふくろ”が紡ぐ感謝の文化

宮城県亘理町 WATALIS

今回は、宮城県南部に広がる太平洋に面した亘理町を訪れた。
温暖な気候と阿武隈川によって運ばれた肥沃な土壌によって、果樹栽培がとても盛んな地域である。
現在イチゴは東北一の生産量、りんごは宮城一の生産量を誇る。

WATALISは、そんな亘理町で着物の生地を使ったFUGUROを製作している。
そして話しを伺ったのは、WATALISの代表取締役の引地恵さんである。

WATALISという名前は、亘理(Watari)とお守り(Talisman)を語源としている。

さらにWATALISのWには、亘理の女性(Women)のW、目指す世界(World)のW、感謝を包む(Wrapping)のW、驚き(Wonder)のクオリティという4つの思いが込められている。

着物地で作った”ふくろ”が紡ぐ感謝の文化

かつて、日本では着物が普段着であった。
そしてその着物の多くが、家事の合間に女性が縫ったものであった。

WATALISのある亘理町でも、昭和30年代くらいまで農家では女性は家族の着物を家で縫っていた。

その当時、町には和裁や洋裁を教える学校があり、「最盛期には200人くらいが、通っていた」という。

そして日々着物を縫う中で出る端切れを使って作られたのが、今回の主役である”ふぐろ”である。
亘理町の女性達は、着物の端切れを使って何枚も“ふくろ”を作り貯めていたという。

こうした“ふぐろ“は、生活の中でご近所の方や親戚、友人など何かして頂いた方へのお礼や手土産として、中にお米を入れて差し上げた。亘理町ではそうした形で感謝を贈ることが、昭和の中頃までごく普通に行われていた。

お米を送ったのは、当時はお米が誰にとっても有り難いものであったからである。

「お礼をするときに備えてふくろを貯めておくなんて、感謝することを探しながら生きるというのか、そうすると良いことが巡ってくるというか。それがとても良いなって。それでそのふくろの名前を聞いたら、名前はなくて“ふぐろ”だって(笑)。」

自分で作ったもので感謝の気持ちを表すという、とても素朴な文化。
そんな感謝する文化の中心にあった“ふぐろ”には“裏地があって”、“ヒモが両引になっている”という2つの特徴があった。

裏地は、中に入れる米粒が縫い目に入るのを防ぐため。
両引は、米粒がこぼれないように口をきちんと結び、持ち易くするため。

その何れもが相手のことを考えたもので、それ以外のデザイン性や機能性はなかったという。
WATALISは、この東北の素朴な“ふぐろ”を”FUGURO“として蘇らせた。
WATALISの製作するFUGUROには裏地があり、さらにヒモが両引となっており、表地の素材には古い着物生地が使われている。

宮城県亘理町 WATALIS

何故、着物地なのか。

そもそもWATALISの引地さんが着物と出会うきっかけとなったのが、彼女が初めて手掛けた「着物」というテーマの展示であった。
WATALISを始める前、引地さんは町の資料館がある悠里館に勤める公務員であった。

「震災のときは、役所につとめていて悠里館にいたんです。公務員です。」(引地さん)
その企画展自体は、震災の最中に終了したが、「当時はいわゆる着物っていうと晴れ着しかイメージなかったんですけど、調べていくうちに昭和の前半まで普段着として衣類の主役だったことを知りました。」

そうした時代の流れもさることながら、最も引地さんの印象に残ったのが、着物が紡いだ家族の思いであったという。

昭和30年代、まだ普段着として使われていた着物は、一方で大切な嫁入り道具でもあった。

かつて亘理町では、娘が嫁にいくとき親がお金を貯めて揃えたたくさんの着物を持たせたという。
「亘理は昔、養蚕がとても盛んだったんですよ。お蚕さんを買うと農家の現金収入になったんです。それも年に何回も。」

当時の亘理町の生糸は南糸と呼ばれ、とても質が良く農家にとってとても貴重な現金収入であった。
娘のいる農家では、貴重な繭を一部売らずに紡いで糸にして、その糸を織って着物を仕立て、大切な娘の嫁入り道具として持たせた家もあったのである。

引地さんは、実際にそうして実家から持ってきた着物を見せてもらったという。
嫁入り道具として持参した着物は、その後何度も仕立て直され様々に形を変えて長く大切に使われる。
新しい着物など簡単に買えない時代、時としてその着物が女性の心の支えにもなった。

「お母さんが縫ってくれたとか。戦後の生地がないときに探しまわって着物を揃えて軽トラックで嫁入りしたとか。だから、今は着てなくて処分したほうが良いような状態であっても捨てられないとか。その訳は人の気持ちにあるなって、感じたんです。」(引地さん)
様々な思い出が詰まった着物は、経済成長とともに姿を消して、今ではあまり着られることがなくなった。

それでも大切に箪笥の中に納められていた着物を、突然東日本大震災が襲った。
震災後、引地さんのいる資料館には薬局や旅館など様々な商家から立て続けに連絡が入ったという。
町の商家には、時として古い書類や帳簿といった貴重な資料が眠っている。

そうした貴重な書類や帳簿を、資料館の資料として寄付したいという申し出であった。

そして連絡をくれた商家の一軒に、「着物の生地があったんです」。
そのときに出会った着物地が、WATALISの原点となった。
“着物”と“ふぐろ“が紡ぐ感謝の文化を、「さらにもっと多くの人に知らしめたいなって。それでWATALISを始めたんです。」

宮城県亘理町 WATALIS

WATALISの活動

WATALISでは、全国から送られてくる着物を使って、FUGUROをはじめとした雑貨を製作している。
基本的に着物をほどいて作るため、1点ものの商品で、量産は出来ない。

同じ生地から作っても、生地の切り取り方で模様が変わってくる。
設立当初は4種類だった商品も、今では40種類にまで増えた。
商品開発は、WATALISのスタッフが行う。

そして現在WATALISに登録している20名程度の女性達が商品を製作する。
もともとは8名程度から始まった。

「人も足りないから声をかけたりして、そのうち口コミで人が増えてきて。」(引地さん)
WATALISのある亘理町には、女性が働ける場所はそう多くないという。

「自分は公務員で恵まれていたから、あまりそういうことを感じたことはなかったけれども、働こうと思っても小さい子どもがいて長く外に出られないとか、震災後だったので何かあったときに連絡取れるようにしたいとか。」
ここでは、そうして集まった人々がのびのびと活躍している。

WATALISで働く女性達は定期的に事務所に集まる。
これから製作する商品の説明や販売先について聞くのである。
ただし、製作はWATALISの事務所では行わない。
製作は各自の自宅で行なうのである。
そして完成した製品は、事務所で検品を行う。
WATALISの検品はとても厳しく、0.5ミリのずれも許さない。
厳しい検品にも関わらず、ここにいる女性の顔はどれも明るい。

「ああやってみんなで集まって、仲間がいるって分かるのと、材料だけを配られてやるのでは気持ちが全然違うんですよ。」(引地さん)
集まることで気持ちの持続や、技術の向上に繋がるという。
取材に訪れた日も、20名程度が集まっていた。中には子供をつれた女性もいる。

すると、一人の女性が「材料配付します。私、トートバッグ4枚持ち帰って縫ったんですけど、4枚でボビン3本がすっからかんになりました。だから、結構糸食いますね。」と、明るい声で説明を始めた。

「今日は午後からああした方が良い、こうしたほうが良いってやるので、お時間ある方は午後から来てください。
午後来る方は、アイロンを持ってきてくださいね。」
女性達は熱心に聞きながらメモを取る。

宮城県亘理町 WATALIS

先日、スイスの高級機械式時計ブランド、ジラール・ペルゴの時計職人がWATALISを訪れたという。

そしてFUGUROがジラール・ペルゴの250個限定記念モデルのパッケージに使われることになった。
小さめのFUGUROに大切に守られた時計は、「日本とスイスの修好条約の150周年記念モデルなんですって。だから、日本とスイスを繋ぐイメージで。」と、ともてもうれしそうに教えてくれた。

そんな引地さんには、WATALISを設立して良かったと実感するときがあるという。
「集まる場を提供出来ているって、すばらしいと思うんです。」

引地さんは、かつて様々な場作りを行った経験がある。
そして、そのときはこれほど人が集まることはなかったという。

しかし今、WATALISで行っているワークショップには仙台、東京、福島、さらには海外からも人が来る。
WATALISを通した人との繋がりが、確実に広がっている。

宮城県亘理町 WATALIS

そしてさらにもう一つ、嬉しそうに教えて下さった。

「自分達がやっていることが注目されたり、評価されたりするのが凄くうれしいんですよ。自分の仕事の価値は、自分自身の価値にも直結すると思うんです。もっと技術を向上させることで、人としての成長にも繋がるのかなって。だから、そういうものを提供できてる気がして、凄くうれしいです。」
今では、とても分かり易く説明をする引地さんだが、かつてはこんな風に積極的に話すことは出来なかったそうだ。

「今はいっぱい仲間がいますし、恥ずかしいとか、どう思われるとか気にして黙っているわけにはいかないんですよ(笑)。」
そんなWATALISが、新たに挑戦しているのが裂織である。
裂織とは古着などを裂いた生地で作る織物のことで、今では裂織のポーチを製作するまでに技術が向上している。

宮城県亘理町 WATALIS

「今までの裂織のイメージとは違う、新しいジャンルのものを造りたいんです。」(引地さん)
WATALISが裂織やFUGUROを通して目指しているのが、繊維のアップサイクルである。
繊維は、一般的に価値を下げながら流通する。
WATALISは、それを「技術力やデザインによってもう一度価値を上げる流通の仕方」を目指している。

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